歌の意味解釈 86〜90番

86 なげけとて月やはものを思はする かこち顔なるわが涙かな     西行法師
87 むらさめの露もまだひぬまきの葉に 霧たちのぼる秋の夕ぐれ    寂蓮法師
88 難波江の芦のかりねのひとよゆゑ みをつくしてや恋ひわたるべき  皇嘉門院別当
89 玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば 忍ることの弱りもぞする    式子内親王
90 見せばやな雄島のあまの袖だにも 濡れにぞ濡れし色はかはらず   慇富門院大輔




■86 西行法師(さいぎょうほうし、1118〜1190)
佐藤義清(のりきよ)。北面の武士だったが出家。
平安時代末期の代表的歌人。

なげけとて月やはものを思はする かこち顔なるわが涙かな

嘆き悲しめと月が私に物思いをさせているのだろうか。
…いや、そうではない。
そうではないのだが、そうとでも思いたくなるほど、
月にかこつけるようにして、涙が流れてしまうのです。

嘆けとて…嘆けと言って
月やは物を思はする…月が(私に)物思いをさせるのだろうか、いやそんなはずはないのに
かこち顔…(月の)せいにするように



■87 寂蓮法師(じゃくれんほうし、1139?〜1202)
『新古今和歌集』の撰者の一人。

むらさめの露もまだひぬまきの葉に 霧たちのぼる秋の夕ぐれ

にわか雨のしずくがまだ乾かずにとどまって輝いている針葉樹の葉。
その葉に谷間から霧が湧き上がってくる。
嗚呼、秋の夕暮れの光景だなぁ〜。

まき…針葉樹。杉や檜。槇?。
歌の時代的特徴:
平安時代半ばごろまでは、紅葉なら錦、草木の露なら白玉(真珠)と、
自然の物を何かに例えるのが盛んだった。
平安時代後期から鎌倉時代になると、この歌のように見たままに自然を描写しはじめた。
雨の名前:
春雨  (はるさめ) … やわらかな春の雨
五月雨 (さみだれ) … 梅雨の長雨
村雨  (むらさめ) … 秋の訪れを告げるにわか雨。夏の通り雨をさすこともある。
時雨  (しぐれ)  … 晩秋から初冬にかけて、降ったりやんだりする雨




■88 皇嘉門院別当(こうかもんいんのべっとう、生没年未詳)
歌合などで活躍。

難波江の芦のかりねのひとよゆゑ みをつくしてや恋ひわたるべき

難波の入り江の蘆を刈ったあとの一節のように 短い仮寝の一夜だけのために、
難波江にある「澪標(みおつくし)」でもあるまいに、
私は、身を尽くして、一生、恋することになるのでしょうか〜。

難波江…大阪湾の入り江。蘆の名所。
みおつくし…「澪標(みおつくし)」と「身を尽くし」を掛けている。
恋ひわたるべき…恋し続けることになるのだろうか。「わたる」は、「〜し続ける」の意。



■89 式子内親王(しきしないしんのう、1153?〜1201)
後白河天皇の娘。賀茂の斎院(コメントNo.1 参照)をつとめた。
『新古今和歌集』を代表する歌人。

玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば 忍ることの弱りもぞする

私の命よ、絶えるなら絶えてしまうがいい。
このまま生きながらえたとしても、
恋心を隠し通す気力も薄れてしまうことでしょうから。

式子内親王は若い十年余りの時期を賀茂神社の神に仕える斎院として過ごした。
その後も独身で暮らし、兄の以仁王(もちひとおう)が
平家追討の兵を挙げて敗死するなど、激動の人生だった。
娘らしい華やかな青春とは無縁の内親王の生涯に、残されたこの一首は、
内親王の内に秘めていた気持ちの激しさか。
内親王の恋の相手は、内親王に和歌の指導をしていた藤原俊成の子、藤原定家だという説がある。
死後、定家が内親王の墓に葛(かずら)となって巻き付いたという定家葛は謡曲になっている。
二人の間に歌を通じての交流があったことからこの説があるが、事実の程は定かではないとのこと。



■90 慇富門院大輔(いんぶもんいんのたいふ、生没年未詳)
平安時代の末、歌合などで活躍。

見せばやな雄島のあまの袖だにも 濡れにぞ濡れし色はかはらず

ああ、あの人に見せたいものです。
雄島の漁師の袖でさえ、どれほど波しぶきに濡れに濡れようとも、色は変わらないというのに、
私の袖は涙で、もうすっかり色が変わってしまっている。

雄島…宮城県松島にある島。松島は松尾芭蕉らにその景色の美しさが詠まれている。
あま…海人。漁師のこと。
「区切れ」…89番「玉の緒よ」や、90番「見せばやな」のように、第1句で歌のリズムが切れること。
五七五七七の短歌で、最初の句が区切れに成ると、出だしの強い印象的な歌になる。


posted by 百人一首散策人 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小倉百人一首 意味・解釈 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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