歌の意味解釈 06〜10番

06 かささぎのわたせる橋におく霜の しろきを見れば夜ぞふけにける   中納言家持
07 天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でし月かも       安倍仲麿
08 わが庵は都のたつみしかぞすむ 世をうぢ山とひとはいふなり     喜撰法師
09 花の色はうつりにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに  小野小町
10 これやこの行くも帰るもわかれては しるもしらぬも逢坂の関     蝉丸




■06 中納言家持(ちゅうなごんやかもち、718?〜785)
大伴家持。父は大伴旅人。『万葉集』の編纂に関わったと言われている。
三十六歌仙の一人。

かささぎのわたせる橋におく霜の しろきを見れば夜ぞふけにける

かささぎが翼をつらねて渡したという橋。
宮中の、その御橋におりている霜が白いのを見ると、もう夜もふけてしまったのだった。

かささぎの渡せる橋…「かささぎ」はカラス科の鳥。肩から胸はらにかけて白、尾は黒く長い。
中国の七夕伝説では、翼をつらねて橋となり、天の川に掛かって
織女を牽牛のもとへ渡すとされた。ここでは宮中の階段をそれに見立てる。
おく霜の白きを見れば…霜が降りるのは深夜から未明にかけて。
その白さが冬の厳しい寒さを感じさせる。
夜ぞふけにける…「けり」には、今初めて気がついたという感動がこもる。
霜の白さを見て、夜がふけたことに気づいたことを表現している。



■07 安倍仲麿(あべのなかまろ、698?〜770?)
留学生として唐に渡り、李白・王維らとも親交があった。
船の難破により帰国に失敗し、唐で没した。

天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でし月かも

大空をふり仰いで、はるか遠くを眺めると、
今見ている月は、かつて奈良の春日にある三笠の山に出ていた月と同じ月なのだなぁ。

天の原…大空。「原」は大きく広がっている様子をさす。
ふりさけ見れば…遠くを眺めやると。
春日なる…「春日」は現在の奈良公園から春日神社のあたり。
遣唐使の出発に際し、春日神社に旅の無事を祈ったとされる。
三笠の山…春日神社の後方の、若草山と高円山との間にある山。
出でし月かも…この「月」は、かつて見た三笠の山の上にあった「月」をさす。



■08 喜撰法師(きせんほうし、9世紀後半)
宇治山の僧という以外、経歴未詳。
六歌仙の一人。

わが庵は都のたつみしかぞすむ 世をうぢ山とひとはいふなり

私の庵は都の東南にあって、このようにのどかに暮らしている。
なのに、私がこの世をつらいと思って、
逃れ住んでいる宇治山だと、世間の人は言っているようだ。

都会の騒がしさや出世競争から逃れて山にこもるのは、
寂しいことであったり、人生の勝負に負けてしまう事なのでしょうか。
そうではなく、自由な心を手に入れることだと考える人は、昔から少なくありませんでした。
この歌は住みかを訪ねられた作者が、山に住む心の安らかさを読んだものです。



■09 小野小町(おののこまち、9世紀後半)
六歌仙で、ただ一人の女性歌人。
絶世の美人と言われ、各地に小町伝説を残す。しかし、その経歴は未詳。

花の色はうつりにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに

桜の花の色がすっかり色あせてしまったと同じように、私の容姿も衰えてしまいました。
桜に降る長雨を眺め、むなしく恋の思いに耽っている間に。

ふる…「世に経る(月日を過ごす)」と「雨が降る」を掛けている。
ながめ…「長雨」と「眺め」を掛けている。
「眺め」…「見る」という意味の他に、恋や人生について、物思いに耽ることもさす。
自分の思い通に生きることが難しかった当時の女性達は多くの時間を「眺め」に費やした。



■10 蝉丸(せみまる、9世紀後半)
盲目の琵琶の名手であったという伝説がある。

これやこの行くも帰るもわかれては しるもしらぬも逢坂の関

これがあの、これから旅立つ人も帰る人も、知っている人も知らない人も、
別れてはまた逢うという、逢坂の関なのですよ。

歌の響きが、いかにもあわただしく逢坂の関を行き来する人々の姿を想像させる。
それは旅をする人々の現実の姿というだけでなく、
一瞬たりとも留まることなく、様々な人々が様々な場所から来て、
出会ってはまた別れるという、世の中そのものの姿でもある。
逢坂の関…「関」は人や物の出入りを監視する所。
「逢坂の関」は、現在の京都府と滋賀県の境にあった「関」。
都から東国への最初の関で、別れを惜しんだ都の人が、この関まで見送る習わしがあった。
蝉丸…伝説的人物。逢坂の関の近くに庵を結んだ盲目の琵琶の名手と言われている。
60代 醍醐天皇 の孫(源博雅)が 三年間通って、
琵琶の秘曲を伝授されたとも伝えられている。


posted by 百人一首散策人 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小倉百人一首 意味・解釈 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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